相続する場合

遺言無効ー遺言能力により遺言が無効とされる場合の判断要素

被相続人が亡くなった後、遺言がでてきたものの、遺言内容に疑問を感じたり、そもそも、作成当時、被相続人が遺言を作成できるはずないということがあります。そのような場合、直接「遺言無効確認の訴訟」をおこしたり、または、遺言が無効であることを前提に、遺言によって財産を受け取った相続人などに対し、不当利得返還請求訴訟を提起したりしますが、問題は、どのような場合に遺言無効になるかということです。

この点、判例・学説とも、まだ固まっていると言えない状況だと思います。
①能力評価は、一般に、見当識(時間や場所など今自分がおかれている現実をきちんと把握すること)、記憶力、認知能力、知能の4要素を基に判定する。遺言は、最終意思であることを考慮すると、遺言の内容と効果を一応なりとも理解して、その実現を欲するのに最小限必要な精神能力を有していれば十分であると思われる、と表現する書籍、②少なくとも近時の裁判例には、遺言能力を一般的抽象的に捉えるのではなく、遺言内容の重大性や難易度を考慮に入れて、当該遺言の内容につき遺言者が理解していたか否かを遺言能力判断において検討しているものが比較的多く見られた。また、遺言作成の経緯、遺言作成時の状況、遺言内容が遺言者の諸関係から自然なものであったか否か等を総合的に考慮することにより、遺言が遺言者の真意に基づくものであるか否か(遺言者の能力低下に乗じた不当な干渉が加わっていないかも含む)の判断をしていると見られるものも少なからず見られた、と表現する書籍、③具体的に行われた遺言との関係で能力の有無が判断されており、その際、遺言を作成する動機があったかも重要な斟酌事由である。動機がなければ、それにもかかわらず遺言をするのは一般的に慎重さが必要であることから、能力否定に傾きやすい、と表現する書籍などがあります。

遺言は過去に作成されているため、その当時の事情が分かる資料が少ないので、争い難いという特徴があります。ある程度、遺言が無効と推認させる資料があるならば、遺言無効を前提とした請求をしつつ、遺留分が侵害されているようなら、予備的に、遺留分減殺請求も主張しておけば、少なくとも遺留分の金銭は取得できるので、遺言に納得ができない場合には、遺言無効を前提にした請求をしてもよろしいのではないかと思います。

注意が必要なのは、遺言無効を前提とした請求だけし、遺留分減殺請求をしないと、遺言が有効と確定した後、遺留分減殺請求をしようと思っても、消滅時効にかかり、遺留分減殺請求が認められないという事態になります。このような事態を回避するよう注意する必要があります。
最高裁昭和57年11月12日は、「被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があつて、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかつたことがもつともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知つていたものと推認するのが相当というべきである」と判示しているように、原則として、遺言無効を主張しても、遺留分減殺請求の消滅時効は進行してしまい、例外的に、時効が進行しないとしているのです。